ソシキンガーZの冒険
企業経営とは、冒険の書から始まる。
起業したての頃は、大した装備も持たず、それでいて強い仲間を集めに酒場をハシゴしたりする。酒場には、たまに天使(エンジェル)もいる。邪悪な天使もいたりするだろう。
事業が少しづつ動きだすと、仲間が増えてくる。
いきなり、ラグナロク(最強装備)を装備しているエンジニアなどが仲間に加わったりする事もあるだろう。
冒険に出掛ける時は、縦列を組んで、経済というMapに繰り出していく。
右に進めば、皆が右についてきてくれる。意志系統がしっかりしているから、迷う事もない。
やがて事業が波に乗ってくると、仲間を増やす事になる。
10名程度であれば、隊列を多少変えれば、難なく事は進む事になる。
しかし、仲間と旅をする中で気づく時がくる。その時は来てしまう。
「こいつの下に人を配置しないとな…」
そうすると、当初から加わっていた仲間に部下が出来る事になる。
これが事業の組織化=ロボ化である。ソシキンガーZの出来上がりである。
組織が小さい規模であれば、まだ融通が利く。
しかし、30名や50名とかになってくると、経営者やCXOの役割が変わってくる。
前線で剣をブンブン振って、敵と対峙をしていたこれまでど違い、
「いやいや、あんたはちゃんとコックピットに座って指示出して下さいよ」
「バラバラに動いちゃうじゃないですか」
という具合に、前線からは離れる事を余儀なくされる。
ロボを動かすには、それ相応の燃料も必要になるので、燃料調達をせねばならない。
あるいは、事業全体方針を決めて、次のマイルストーンを決めねばならなくなる。
コックピットに立つと、ロボの一番上から見渡す事になるので、色々と見えるものもある。
経済を見通した上で、物事を俯瞰して見ねばならない。
これから来るであろう脅威、かと思えば、青そうに見える大海も見えてきたりする。
自分達の進行方向を改めて上から眺めてみると、
「あ、やべ、この先、めっちゃ坂道じゃね?」
「もうちょっと左の方進まないと、まずい事になんじゃね?」と気づいたりもする。
そうすると、コックピットから指示を出さねばならない。
「全体的にもう少し左―!このまま進むと沼地があるー!」と。
そうすると、ロボが方向を少し変えて進みだすのである。
但し、これが続くとなると、上手くいかない時が多々出てくる。
これが経営者の最も辛く、苦戦を強いられる部分だと言っても過言ではない。
「(この先、崖だな…) もうちょい右―!」と指示を出したとしても、ロボが大きいと、
あれ?右進んでなくない?あれ?あれ? となる。
よくよくロボを見直してみると、右足だけ思いっきり言う事聞いてなかったりするのである。
ちょっとちょっとー!なんでよー!と言ってコックピットから降りて、右足部分まで駆けおりていく。
右なんだよ、右進んだ方がいいから!右進まないと!!
と熱心に説明をして理解をしてもらう作業が必要になってくる。
もっと怖いのが、
(少し先に真っ青な海が見えるなー!魚いっぱいいそう!でも、その前に泥沼通らないといけないな…)って時もある。
そんな時でも、「この先は青い海だから!本当だから!」と言って促す、
しかし、今度は左足が「自分ら、このままがいいっす」「泥沼は嫌っす」と言って理解してもらえない。
何度も何度も、熱心に熱心に説いても、
「汚れんの自分達っすから、さーせん」と、、、
むむむ、、、となって一旦コックピットに戻ると、事件が起こる。
急に右腕が、「ストロングライトー!」と言って飛び出していってしまう。管理職の離職である。
右腕を失ったロボは平行感覚を失うため、経営者は急遽、右腕を代理で努める事になる。
そうこうしてるうちに、左足が泥に足を取られだす。
沼が思ったよりも深く、中々前に進まない。
沈んでしまった目線では、目線が低く、もはや、前に見えていたのは本当に青い海だったのか自信が無くなってくる。
それでも、ブレてはいけない。「前進―!前進―!!」
と心の声は枯れそうなくらい叫び続ける。いや、23回くらい枯れるだろう。
そうこうしている間に、何とか沼を通り抜け、海にたどり着く。
あの日見ていた程、澄んだ青色ではなかったとしても、とにかく前に進める喜びがそこにはある。
ロボットは少しボロボロになってしまったけれど、魚(燃料)が手に入るので、また改築出来る。
しかし、青い海はずっと続くわけではない。
そこで考えるのである、どうすればいいのか、、もうあんな思いはしたくないと考えに考えた末に思いつく、
「ロボットに翼をつけよう!!」
翼という名の新規事業である。
社内コンテストと題して、新規事業を募り、急ピッチで翼を作り、空を飛べるだけの材料を揃える。
よし、後は飛びたつだけだ!!
3,2,1、点火(ローンチ)!!!
飛んだ、飛んだはよいものの、空を飛ぶためにはジェット燃料が必要である。
中々補給出来ないまま、やがて燃料が底をつきだす。
こ、こんなに燃料必要やったんや…
くそー、もう少し、もう少しなのに!
とにかく後は地面に墜落するか、不時着するかだけである。
その頃には、もうそれはロボットではなくなっている。
勿論、上手く風に乗れる場合もある。
その場合、これまで以上に遠くに高くに辿り着く事が出来る。
ある程度風に乗ったので、細々な指示を出さなくても、風が運んでくれる。燃料もさほどいらない。
経営者はコックピットを改築して、テラスデッキを作る。
バーカウンターなんか作っちゃって、たまに読者モデルの子も遊びに来たりするのかもしれない。
成功者としてAERAかなんかに特集されちゃう。NewsPicksのコメントは毎回100イイネがつく。
かどうかは知らないけれど、こうして上手くいくケースだってたくさんあるだろう。
一方で、墜落した彼はというと、また「始まりの町」で仲間集めをしているかもしれない。
かもしれないし、他のロボに乗組員として参加しているのかもしれない。
ロボットの操縦は、本当に難しい。大きくなればなるほど、複雑さは増すばかりである。
だからこそ、重要なのは、その関節部分である。
右に動こう!となった時に、それに呼応してくれる関節があるかどうか…これで経営は変わる。
組織化をしていく過程で、出来上がっていく様々な関節、
その関節部分をつかさどる管理職こそが、巨大ロボの操縦には欠かせない要素である。
だから、どうしても想いが重ならない時は、自分の右足を切り落としていく覚悟も必要なのである。
一度動きだすと、ロボットは止まらない。
今日もコックピットは、たくさんの孤独と希望に満ち溢れている。